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濱田美栄「ライバルたちを大切に」宮原知子、紀平梨花に授けた教え。

Number Web によると。

 11月9日、10日に行われたフィギュアスケートのNHK杯女子は、紀平梨花が優勝、宮原知子が2位という結果とともに幕を閉じた。この大会で印象に残ったのは、2人を指導する濱田美栄コーチだった。

 試合後、記者陣から宮原へ紀平についての質問が相次いだ。紀平の存在をどう感じているか、紀平に次いで2位という結果に終わったことをどう受け止めているか、高難度のジャンプを持つ紀平とどう戦っていくのか……などだ。

 2人はともに関西大学のリンクで練習するチームメイトだ。ただ、試合になれば競い合う相手ともなる。だから、そうした質問も多かったのだろう。

 その関心は、両者を教える指導者にも向けられる。どう同じ大会に臨ませて、どう2人と接していたのか。
SP前日、2人に話したこと。
 濱田コーチは、ショートプログラムの前日、2人に対して食事の席でこのような話をしたという。

 「広島でのNHK杯、私自身に強い想いがありました。私の母は、被爆一世なんです。伯母さん、母の姉は13歳でこの世を去りました。それもあって、『今こうやって才能とチャンスに恵まれたのだから、好きなことをやり続けられる世の中に生まれたのだから、ベストを尽くそう』という話をしました」

  ベストを尽くして表彰台に上った彼女たちには、この教えがしっかりと伝わっていたに違いない。さらに別の教えもあった。

 「この街はまったくの焼け野原から、ここまで自分で立ち直ったわけじゃないですか。広島の人が悪いことしたわけじゃないじゃないですか。それでも助け合って、人のせいにせず、ここまで来た。文句を言うにも何もないわけですから。だから人のせいにしないでやろう、と私は言うんです」
「ライバル関係」の難しさ。
 スポーツでは「ライバル関係」がよく取り沙汰され、注目される。力が拮抗した状態で競い合えば、どちらが勝利するのかに関心が集まるのは自然なことだろう。それは選手本人も否応なく相手を意識せざるを得なく、自然の成り行きだろう。

 問題は、その先にある。

 ライバルと目される選手がいて、どんな関係を作り上げていくのか。もし普段の練習の仲間なら、日々、どう接するのか。そういった部分にも指導者は気を配らなければならない。なぜなら、その関係性が選手の今後を左右することがあるからだ。端的に言えば、足を引っ張り合うようになってしまえば、お互いの成長は望めない。

「エネミーではなく……」
 「相手の人が嫌だったので、試合前も変に気を遣って、自分でも“何だかな”とは思っていたんですけど……」

 これはだいぶ前に聞いた、ある競泳選手の言葉だ。相手を敵とみなしているようでは、自分の力を出し切ることはおぼつかない。

 だからこそ多くの指導者は、競争相手を“敵”ではなく“よきライバル”であると意識できるようになるか、選手への指導において努めているのだ。

 濱田コーチは、先の話の合間に「(同じ大会に)2人出すって難しかったんですけど」と話していたことから、腐心する部分もあったのだろう。実際、広島での実体験や伝えたかったことは心に残るものだし、濱田コーチが選手を育てるにあたって、何を大切にしているかも改めてうかがえた。

 それは日頃から語ってきたという次の言葉からも分かる。

 「エネミーではなく、ライバルたちを大切にしなさい。よきライバルが必要。大切にしなさい」

 相手の力を認め、それを糧にできる重要性を選手に伝えてきたのだ。
紀平と本田真凜の勝負では。
 一昨年の近畿選手権でのエピソードも印象深い。当時、紀平と本田真凜の勝負が注目されていた。

 両者は渾身の演技を見せ、僅差で紀平が優勝、本田が2位という結果となった。本田は体調不良の中での試合だったが、それでも好演技を見せた。その理由として本田は、濱田コーチからかけられた言葉を挙げた。

 「『梨花は、真凜を強くしてくれるんだよ』と言葉をかけてくれて」

 濱田コーチは大会後、こんな話をしている。

 「真凜のご両親が『梨花ちゃんのおかげで成長できる。本当にありがたい』と言っておられて、私もありがたいなと思いました」

 その言葉もまた、コーチとしての姿勢を表している。
紀平と宮原が口にしたこと。
 紀平は、試合後にこう語っている。

 「宮原選手のことは本当に尊敬していますし、いつも見習ってばかりで、本当に良い環境でいつも練習しているので、感謝したいです」

 一方で、試合後に何度も「悔しいです」と繰り返した宮原もこう話していた。

 「普段の練習から、たくさん刺激を受けることができているので、もっともっと頑張らないと、という気持ちを忘れずに、日々練習することができています。一緒に練習している紀平選手や、他の強い選手から、自分にはない良さを見て勉強したり、自分のものにできるように見たりしています」

 きっと2人はもっと高め合っていく。そう思わせる言葉だった。